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南の玄関

門戸考

家相で好まれる方位のひとつとして語られてきました。明るさの利点とあわせて、現代の住まいで気をつけたい点も見ていきます。

北東 南東 南西 西 北西 鬼門 裏鬼門

古典ではこう言われます

南に向いた玄関は、家相で日当たりのよい方位として好まれてきました。江戸期の家相書では、巽(南東)に玄関を設けることを吉とする説が広く語られており、南に向いた玄関もこれと近い理由から、好意的に語られてきた方位のひとつです。方位の吉凶を細かく論じる家相のなかでも、南は数少ない「好ましい」とされる向きにあたり、鬼門・裏鬼門のように避けるべき方位とはまったく逆の位置づけを与えられてきました。多くの家相書が「忌むべき方位」を列挙するのに対し、南や南東はむしろ積極的に選びたい方位として名前が挙がる、数少ない例といえます。

易の八卦では、南は離(り)にあたります。離は火や太陽と結びつけられる卦で、一日のうちでもっとも日が高くなる正午の方位とされてきました。玄関がこの方位に向くことは、家の顔となる場所に明るさを迎え入れる配置として語られてきたといえます。日の光がもっとも強く差し込む方位に人を迎え入れる玄関を置くという発想は、離の卦が持つ明るさの象徴と重なります。八卦のなかでもとりわけ「陽」の性質が強い方位として位置づけられてきたことも、南が好まれてきた理由のひとつに数えられます。

なぜそう言われるのか

巽(南東)の玄関を吉とする説には、採光・通風の面からの説明が付されることが多いとされます。南に向いた玄関が同じように好まれてきた背景にも、これと近い実利があったと考えられています。方位の吉凶を語る家相書のなかで、南東と南がそろって好意的に扱われてきたのは偶然ではありません。

木造で断熱・気密の水準が低かった時代の住まいにとって、日照は暮らしの質を大きく左右するものでした。南に面した開口部は一日を通じて日が入りやすく、冬は暖かく、湿気もこもりにくい場所になります。玄関という、家族と客の双方が行き交う場所に、こうした日照の利点が重なる方位が置かれることは、住まい手にとって歓迎すべき配置だったと考えられます。暗く冷えやすい方位に玄関を構えるよりも、明るく乾いた方位に構えるほうが、当時の暮らしにとって都合がよかったのは想像に難くありません。柱や床材が湿気を含みにくいことも、木造家屋の耐久性を保つうえで重要だったとされています。

つまり南の玄関が好まれてきた背景には、方位そのものの吉凶というより、当時の住環境で実際に恵まれていた条件——明るさと乾きやすさ——があったという読み方ができます。これは、鬼門・裏鬼門が避けられてきた理由とちょうど裏返しの関係にあるといえます。避けるべき方位と好まれる方位が、どちらも同じ「日照と湿気」という物差しで語られてきたことは、家相という考え方の一貫性を示しているといえるでしょう。

実際の間取りでよくある形

南に玄関が来る間取りには、いくつか典型的な形があります。分譲住宅でよく見られるのは、南側接道の敷地に玄関を南向きに配置する「南入り」の形です。道路が南にあるため、玄関を南に向けるのが自然な設計になり、南東の玄関で扱う南東入りの敷地とも近い条件から生まれます。分譲地では同じ向きの敷地が連続することが多く、南入りの家が並んで建つ光景もよく見られます。

上が北
上が北。濃紺の面が玄関のあるあたりです。方位は建物の中心から見て割り出します。

ほかにも、旗竿地で南側だけが開けている敷地や、南面にリビングと玄関の両方をまとめた間取りにもよく見られます。日当たりのよさを優先した結果として、南の玄関が選ばれることが多いといえます。角地で南側と東側の両方に道路が接する敷地でも、玄関を南に寄せる設計が選ばれやすい傾向があります。二世帯住宅で、南面に共用の玄関を設けるケースもこの類型に含まれます。

現代の住まいでの読み替え

現代の住宅でも、南の玄関が持つ明るさの利点は大きく変わりません。エントランスまわりが自然光で満たされ、帰宅時の印象が明るくなりやすい方位です。植栽や窓の配置次第では、玄関ホールの奥まで光を届けることもできます。共働き世帯が増えるなかで、日中も明るい玄関は防犯上の安心感にもつながるとされています。

一方で、夏場は南からの日射が強く、玄関ポーチやドア面が熱を持ちやすいという実際の課題もあります。西日ほどではないにせよ、正午前後の直射日光が長く当たり続けるため、玄関まわりの温度が上がりやすく、素材や色によっては傷みが早まることもあるとされます。庇や軒の出、植栽による日よけなど、明るさを保ちながら熱をやわらげる工夫が古くから重ねられてきました。近年の住宅では、断熱性の高い玄関ドアや、日射を調整できる庇の設計で、この課題に応える例も増えています。玄関収納の内部が高温になりやすいことも、南向きならではの注意点として挙げられます。ドアの色を明るめに選ぶだけでも、表面温度の上がり方が変わってきます。

お手元の間取り図では、どうでしょうか

玄関の方角と、水回り・建物の外形をあわせて拝見します

間取りの写真1枚で分かります

同じ南でも変わること

マドラバの無料診断で玄関について指摘されるのは、鬼門・裏鬼門にあたる北東・南西の二方位のみで、南の玄関はその対象になりません。南東・南を好ましい向きとする判定は、AI完全版レポート(有料)で扱われる項目です。無料診断の対象外だからといって、間取り全体が整っているとは限りません。玄関の向きはあくまで診断の一項目にすぎないという点は、押さえておきたいところです。

鬼門 裏鬼門 宅の中心
上が北。家相で「三所」と呼ばれるのは、鬼門・裏鬼門・宅の中心の三つ。診断でも、間取り図をこの九つの区画に分けて見ています。

玄関の向きだけで家全体を見るわけではないというのが、家相の基本的な考え方です。水回りが鬼門・裏鬼門に重なっていれば別の指摘が加わりますし、建物の外形に南の欠けがあれば南の欠けのように、その方位ごとに意味合いが変わってきます。南に玄関があることと、家全体の配置が整っていることは、別の話として見る必要があります。複数の要素を重ねて見ることで、はじめて間取り全体の傾向がつかめます。

古くから採られてきた対処

古くは、日の入る玄関まわりを整え、明るさを損なわないことが心がけられてきました。あわせて、日射の強い時期には庇や日よけで熱をやわらげることも大切にされてきたとされます。掃除や換気といった日々の手入れも、方位を問わず共通して重んじられてきました。

自分の家の場合にどこを見るべきかは、方位だけでなく間取り全体の組み合わせで変わってきます。水回りの位置や建物の外形もあわせて確かめておくと、より具体的な見立てにつながります。

あなたの間取りで見るべき点は

玄関・水回り・建物の外形を、古典に照らして拝見します

間取りの写真1枚で分かります

典拠



家相の通説で巽(南東)の玄関を吉とする説(江戸期の家相書群に見られる)。採光・通風の面からの説明が付されることが多い

易の八卦を方位に当てる考え方(後天定位盤)。北=坎、北東=艮、東=震、南東=巽、南=離、南西=坤、西=兌、北西=乾

文献名までは特定していますが、原文・頁の照合は行っていません。表記を「〜に見られる」に留めているのはそのためです。

よくあるご質問

南の玄関は必ず良い間取りなのでしょうか。

家相書の記述は流派によって幅があり、南の玄関を無条件によいと断じるものばかりではありません。日当たりの面から好意的に語られてきた方位のひとつ、という位置づけです。方位だけにとらわれすぎず、間取り全体を見る視点が大切で、他の要素とあわせて確かめておくとよいでしょう。

マドラバの無料診断でも南の玄関はよいと判定されますか。

無料診断が玄関について指摘するのは北東・南西の二方位のみで、南の玄関はその対象になりません。南東・南を好ましい向きとする判定は、AI完全版レポート(有料)で扱われる項目です。無料診断でも、水回りの位置や建物の欠けはあわせて見ていますので、方位以外の傾向も確認できます。

夏の日射が気になります。何か対処はありますか。

古くから、庇や軒の出、植栽などで日よけをつくり、玄関まわりに熱や湿気をこもらせないことが心がけられてきました。建物を変えずにできる工夫の範囲であり、リフォームを検討する際の参考にもなります。玄関ドアの色や素材選びでも、熱のこもりにくさを意識するとよいでしょう。

南に玄関があり、水回りも近くにある場合はどうなりますか。

玄関の向きと水回りの位置は別の項目として見られます。水回りが鬼門・裏鬼門に重なる場合は、その組み合わせごとに古典の記述が変わってきますので、あわせて確認しておくとよいでしょう。玄関単体ではなく、家全体の配置を通して見る視点が大切になります。

案内役のイラスト

広げる。合わせる。照らす。

間取り図を広げ、方位を合わせ、古典に照らす。
あなたの一枚を、順に拝見します。

登録不要・所要 約1分

間取りの写真1枚で分かります