住まいの形態別
借りている家は、間取りも設備も自分の判断だけでは変えられません。建物を変えずにできる範囲と、次の転居先を選ぶときの見方に絞って整理します。
一
賃貸住まいは、間取りも設備も、貸主が用意したものをそのまま使うのが前提です。壁を動かす、水回りの位置を変える、玄関を作り直すといった変更は、賃貸借契約上ほぼできません。原状回復の義務があるため、退去時に元に戻せない変更は避けられます。アパートでもマンション形式の賃貸でも、この前提は変わりません。
家相で見る対象——玄関の方位、水回りの位置、建物外形の欠け——は賃貸でも戸建てやマンションと変わりません。違うのは、指摘があったとしても、建物そのものを直す選択肢が最初から手元にないという点です。持ち家であれば検討できるリフォームという選択肢が、賃貸では現実的でないことがほとんどです。
賃貸の家相は、「今の家でできる所作」と「次に住む家を選ぶときの見方」という、二つの異なる場面に分けて考えると整理しやすくなります。今の部屋で完結させようとすると、できることの少なさに行き詰まりやすいためです。単身向けのアパートから家族向けの賃貸マンションまで、建物の形は幅広いですが、借りているという前提そのものは共通しています。
二
家相書の多くは、施主が自分の意思で間取りを決められる木造家屋を前提に書かれてきたとされます。江戸期から明治期にかけて広く流布し、大工の手引きとして用いられたとされる出版事情からも、家を建てる側・持つ側に向けた記述であったことがうかがえます。
賃貸という、他人が所有する建物を一定期間借りて住む形は、こうした前提の外にあります。玄関や水回りの位置に不満があっても、借主の判断だけで直すことはできません。契約上、内装や設備を勝手に変更することも制限されています。江戸期にも店借り・長屋住まいのように他人の建物を借りて暮らす形はありましたが、家相書が中心的に想定していたのは、あくまで自分の意思で建てる住まいだったと考えられています。
それでも、家相書が繰り返し説いてきたのは、方位そのものの吉凶だけでなく、その場所がどう保たれているかという点でした。掃き清め、明るく風の通る状態を保つといった対処は、建物の構造を変えずにできる範囲の話として書かれています。賃貸という住まいの形は、家相書が想定していた「持ち家」からは外れますが、この所作の部分だけは、借りている家にもそのまま当てはめられます。建物を所有しているかどうかにかかわらず、日々の手入れは住む人の判断で決められる範囲だからです。
三
まず、今住んでいる部屋でできることから見ます。玄関や水回りの方位を間取り図から読み取り、鬼門・裏鬼門にあたるかどうかを確認します。あたる場合でも、建物を変えることはできないため、掃除の頻度や換気の習慣、ものの置き方といった所作の範囲で対処を考えます。
次に、次の転居先を選ぶ場面での見方です。内見の段階であれば、玄関の方位、水回りの集まり方、部屋の外形をあらかじめ確認することができます。複数の候補があるときは、これらを比較材料にすることができます。単身向けのワンルームでは水回りが一体になっていることも多く、その場合は水回り全体をひとつの区画として見ます。
賃貸物件は、間取り図が公開されているため、内見前の段階で方位のおおよその傾向をつかむことができます。方位を確認したうえで内見に臨むと、実際の採光や風通しとあわせて判断しやすくなります。募集図面の方位表記は簡略化されていることもあるため、内見時に実際の向きを確かめておくと精度が上がります。
四
現代の賃貸住宅は、宅配ボックスやモニター付きインターホンなど、建物単位の設備が充実している一方、専有部分の間取りを住まい手が変えられる余地は戸建て以上に小さいのが実情です。原状回復の範囲を超える工事は、貸主の許可なく行うことができません。
そのなかでできる工夫としては、玄関マットや照明で明るさを補う、水回りの換気扇をこまめに使う、湿気のこもりやすい場所に除湿剤を置く、といった範囲があります。いずれも原状回復を伴わずに実践できる対処です。突っ張り棒や粘着フックを使った簡易的な収納の工夫も、この範囲に含まれます。
退去が視野に入っている場合は、次の住まい選びの段階で方位を確認材料に加えることもできます。契約前の内見時に間取り図と方位を照らし合わせておくと、入居後に建物を変えられない賃貸でも、選ぶ段階で反映させることができます。数年おきに転居する暮らし方であれば、選ぶたびに方位を見直す機会がある、という捉え方もできます。持ち家より転居の頻度が高い分、選び直せる機会そのものは多いともいえます。
五
よくある誤解のひとつが、「賃貸だから家相を気にしても仕方がない」という受け止め方です。建物を変えられないのは事実ですが、掃除や換気、ものの置き方といった所作の範囲は、賃貸でも実践できます。何もできないわけではなく、できる範囲が限られている、という理解のほうが実情に近いといえます。
逆に、「賃貸でも間取りを直せば良くなる」と踏み込むのも、賃貸という住まいの形からは外れます。壁を動かす、水回りを移設するといった変更は、賃貸借契約上ほぼ認められません。建物を変えずにできる対処と、次の転居先を選ぶときの見方を分けて考えることが必要です。この二つを混同すると、できないことに気を取られて、できる範囲の対処まで見失いやすくなります。今の部屋と次の部屋、それぞれで何ができるかを分けて考えることが実情に合っています。
六
無料の見立てが見ている範囲
マドラバの無料の見立ては、間取り図から玄関と水回りが鬼門・裏鬼門にあたるか、外形に欠けがあるかを拝見しています。賃貸物件の間取り図でも同じ3点を見立てられます。ただし、賃貸は建物そのものを直すことができないため、指摘があっても「直す」ではなく「所作で対応する」「次の転居先で選び直す」という形の使い方になります。具体的な所作の優先順位や転居先の選び方は、完全版レポートで扱う範囲になります。
七
準備中です。まずは無料の見立てからどうぞ。
八
鎌倉期『陰陽道旧記抄』の「竈、門、井、厠、者家神也」および江戸期の家相書(松浦東鶏『家相図解』『家相大全』ほか)に見られる、門戸を鬼門・裏鬼門に忌む説。
江戸期から明治期にかけて家相書が広く流布し、大工の手引きとして用いられたとされる出版事情。
江戸期の家相書(松浦東鶏『家相図解』ほか)に見られる建物外形の「張り・欠け」論。
文献名までは特定していますが、原文・頁の照合は行っていません。表記を「〜に見られる」に留めているのはそのためです。
九
玄関の位置を変える工事は、賃貸借契約上ほぼ認められません。家相書が示してきたのも、方位そのものを直す方法ではなく、掃き清め、明るく風の通る状態を保つといった所作の範囲です。建物を変えずにできる対処として、まずはこちらを実践する形になります。
壁や床に手を加えない範囲であれば、置物や観葉植物を置くこと自体は原状回復の対象になりません。家相書が説いてきた対処の多くも、こうした所作の範囲にとどまっています。契約書の特約に不安がある場合は、事前に貸主や管理会社に確認しておくと安心です。
玄関の方位とあわせて、水回り(浴室・トイレ・キッチン)がどこに集まっているか、部屋の外形に欠けがないかを間取り図で確認しておくと、家相の観点からの比較材料が増えます。実際の採光や風通しは、内見時に体感で確かめるほうが正確です。募集図面だけで判断せず、現地で確認する習慣を付けておくとよいとされます。