住まいの形態別
戸建てと違い、方位も間取りも選べないところから始まります。家相書が前提にしていた住まいとマンションとの隔たりを、専有部分の考え方とあわせて整理します。
一
マンションは、建物全体ではなく、購入・賃貸した住戸の内側(専有部分)だけを自分の意思で決められる住まいです。方位、階数、共用廊下との位置関係、隣接する住戸との境目は、住戸を選んだ時点でほぼ確定しています。壁一枚を隔てた外側は共用部分か他の住戸であり、戸建てのように自分の判断だけで手を加えられる範囲ではありません。
家相で見るのは、この専有部分の間取りです。玄関がどの方位に向いているか、浴室・トイレ・キッチンがどこに集まっているか、バルコニーを含めた住戸の外形がどう欠けているか——考え方そのものは戸建てと変わりません。専有部分を一つの独立した「家」として読み、そこに家相の骨格を当てはめていく形になります。
ただし、戸建てのように敷地や道路付けを選んで玄関の位置を決める、ということができません。マンションの家相は、与えられた間取りをどう読むかという話から始まります。住戸選びの段階であれば方位を比較材料にできますが、入居後に玄関や水回りの方位そのものを動かす選択肢は、事実上ありません。
二
家相書の多くは、江戸期から明治期にかけて広く流布し、大工の手引きとして用いられてきたと言われています。当時の住まいは、敷地の中に一戸を建てる木造家屋がほとんどでした。玄関の位置も、水回りの配置も、施主と大工の判断で決められる前提で書かれています。
集合住宅という住まいの形は、家相書が想定していた時代にはほぼ存在していません。共用廊下の位置で玄関の方位が決まる、上下左右を他の住戸に囲まれる、外形の一部がバルコニーとして外に張り出す——こうした条件は、古典の記述の中には出てきません。鉄筋コンクリート造の集合住宅そのものが、当時の建築技術ではまだ一般的でなかったという事情もあります。
それでも、家相の考え方の骨格——鬼門・裏鬼門にあたる場所への注意、三所三備、外形の張り欠け——は、方位と間取りさえ読み取れれば、専有部分にもそのまま当てはめて考えることができます。家相書が「敷地に一戸を建てる」ことを前提に書かれていたという事情は、マンションで家相を読むときにまず押さえておきたい隔たりです。
易の八卦を方位に当てる後天定位盤の考え方も、建物の中心から8方位を割り出すという骨格そのものは、専有部分の広さや階数に関わらず同じように当てはめられます。集合住宅という建物の形が変わっても、方位を割り出す手順自体は変わらない、という点は押さえておく価値があります。
三
マンションの間取り図を見るときは、まず専有部分の中心(宅心)をどこに取るかを決めます。ここで論点になるのが、バルコニーを外形に含めるかどうかです。バルコニーを含めれば中心は外側へ寄り、含めなければ室内側に寄ります。この違いで、鬼門・裏鬼門にあたる区画の判定が変わることがあります。パイプスペースや共用部分の食い込みがある住戸では、外形そのものを正確に把握することも欠かせません。
次に玄関の位置です。共用廊下に面した側に玄関を置かざるを得ない間取りが大半で、共用廊下がどちらの方位に通っているかで、玄関の方位はほぼ決まってしまいます。角部屋であれば二方向に開口が取れる分、玄関の位置に多少の幅が出ることもあります。
浴室・トイレ・キッチンは、給排水の都合で専有部分の同じ側にまとめられることが多く、方位が重なりやすい傾向があります。建物外形の欠けは、バルコニーの張り出しや共用部分の食い込みによって生じる場合が多く、住戸ごとの図面で確認する必要があります。同じ棟でも、階数や住戸位置によって欠けの出方が違うことも珍しくありません。
四
マンションでは、玄関や水回りの位置そのものを変えることは、リフォームでもかなり制約されます。給排水管や躯体の位置が決まっているためです。方位を動かせない前提のうえで、家相の考え方をどう活かすかが実際の論点になります。専有部分の中で動かせるのは、家具の配置や仕上げ材といった範囲にとどまります。
たとえば、鬼門・裏鬼門にあたる玄関であっても、掃き清め、明るく風の通る状態に保つといった対処は、間取りを変えなくても実践できます。方位を変えられない分、こうした所作の面での工夫に重心が置かれる、という読み方ができます。玄関の照明を明るめにする、下駄箱の中を定期的に整理するといった対処も、この延長線上にあります。
購入前の物件選びの段階であれば、複数の候補住戸の間取り図を見比べて、玄関・水回り・外形の欠けの傾向を比較材料にすることもできます。方位を選べる余地があるのは、この段階に限られます。同じ棟内でも住戸によって方位が異なるため、階や向きの違う複数の候補を並べて検討することに意味があります。
五
よくある誤解のひとつが、「マンションは家相と無関係」という受け止め方です。家相書がマンションを想定していなかったのは事実ですが、方位と間取りを読み取るという骨格は、専有部分にもそのまま当てはめられます。無関係というより、前提が違う、という理解のほうが実情に近いといえます。
逆に、「方位が悪ければ住戸を変えるべきだ」と踏み込むのも、マンションの実情からは離れます。共用廊下の位置で玄関の方位がほぼ決まる以上、選べる余地は戸建てよりずっと狭いのが実際です。家相書の記述をそのまま当てはめるのではなく、選べない前提での読み方が必要になります。方位だけを理由に住み替えを急ぐ必要はなく、所作の範囲でできる対処から検討するのが実情に合っているといえます。
六
無料の見立てが見ている範囲
マドラバの無料の見立ては、間取り図から玄関と水回りが鬼門・裏鬼門にあたるか、外形に欠けがあるかを拝見しています。マンションの間取り図でも同じ3点を見立てられます。ただし、マンションは共用廊下の位置で玄関の方位がほぼ決まるため、指摘があっても住戸そのものを動かすことはできません。バルコニーを含めた中心の取り方や、選べない前提での読み方は、完全版レポートで扱う範囲になります。
七
準備中です。まずは無料の見立てからどうぞ。
八
鎌倉期『陰陽道旧記抄』の「竈、門、井、厠、者家神也」および江戸期の家相書(松浦東鶏『家相図解』『家相大全』ほか)に見られる、門戸を鬼門・裏鬼門に忌む説。
家相の「三所三備」(三所=鬼門・裏鬼門・宅の中心/三備=竈・厠・井戸)に三備を掛けないとする説。江戸期の家相書群(松浦琴鶴『家相一覧』天保四年 ほか)に見られます。
江戸期から明治期にかけて家相書が広く流布し、大工の手引きとして用いられたとされる出版事情。
易の八卦を方位に当てる考え方(後天定位盤)。北=坎、北東=艮、東=震、南東=巽、南=離、南西=坤、西=兌、北西=乾。
文献名までは特定していますが、原文・頁の照合は行っていません。表記を「〜に見られる」に留めているのはそのためです。
九
家相書は敷地に一戸を建てる木造家屋を前提に書かれており、集合住宅という住まいの形そのものは想定していません。ただし、方位と間取りを読み取るという骨格は専有部分にも当てはめられます。無関係とまでは言えず、前提が異なる住まいとして読む必要がある、という位置づけです。専有部分を一つの家として読む姿勢は、戸建てと変わりません。
含めるかどうかで、鬼門・裏鬼門にあたる区画の判定が変わることがあります。家相書は集合住宅の外形を想定していないため、この点を直接示した記述はありません。図面ごとに条件が異なるため、具体的な判定は完全版レポートで扱う範囲になります。判断に迷う場合は両方の取り方を見比べるとよいとされます。
集合住宅では、共用廊下の位置で玄関の方位がほぼ決まるため、住戸単位で選べる余地はほとんどありません。北東の玄関や南西の玄関のように鬼門・裏鬼門にあたる場合でも、家相書は掃除と風通しを保つ対処を示すにとどめてきました。
候補となる住戸が複数あれば、間取り図から玄関・水回りの方位と外形の欠けの傾向を比較材料にすることができます。方位を選べる余地があるのはこの段階に限られ、入居後に間取りそのものを動かすのは難しいのが実情です。契約前に複数の階・向きを見比べておくと材料が増えます。