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北東の玄関

門戸考

家相で「鬼門」と呼ばれてきた方位です。何が言われてきたのか、なぜそう言われるのか、いまの住まいではどう読み替えられるのかを、典拠とあわせて整理します。

北東 南東 南西 西 北西 鬼門 裏鬼門

古典ではこう言われます

北東は、家相で鬼門と呼ばれてきた方位です。ここに玄関を設けることは、古くから避けるのがよいとされてきました。

鬼門という言葉は、その方位そのものが凶である、という意味では必ずしも使われていません。家の中でとりわけ注意して整えるべき場所として扱われてきた、という説明が家相書には見られます。

江戸期の家相書では、家の中の「三所」——鬼門(北東)、裏鬼門(南西)、そして家の中心——に、火や水を扱う設備や人の出入りする場所を重ねないほうがよい、とされました。玄関は「門戸」にあたり、この三所に重なる配置は慎まれてきたわけです。

家相書の記述は流派によって幅があり、北東の玄関を一律に断じるものばかりではありません。方位そのものより、その場所がどう保たれているかを重く見る記述も見られます。

『陰陽道旧記抄』が名指しした対象は、竈・門・井・厠——火や水を扱う場所と、人の出入りする場所に限られます。居室や納戸など、出入りの少ない場所については、鬼門であっても同じ強さでは語られてきませんでした。玄関はまさに「門」にあたるため、この対象の中心に位置づけられてきたといえます。角地や旗竿地など敷地の形によって北東に玄関が寄る場合も多く、方位を選べない事情があったことも、家相書の記述に幅を持たせてきた背景のひとつと考えられます。

なぜそう言われるのか

鬼門という考え方の出どころは、中国から伝わった方位観と、日本で独自に発展した陰陽道にあるとされます。

『陰陽道旧記抄』
竈、門、井、厠、者家神也

北東は、十二支でいえば丑と寅のあいだにあたります。鬼が牛の角と虎の皮をまとった姿で描かれるようになったのは、この配置に由来するという説明が知られています。

もっとも、これが家相として住まいに当てはめられたとき、そこには当時の住環境の事情も重なっていたと考えられています。

日本の伝統的な木造家屋で、北東は一日を通して日が差しにくく、冬は冷たい風が入りやすい方位でした。夏は朝日が早くから当たるため、食物や水を置く場所としては傷みが早い。冷えと湿気がたまりやすく、掃除も行き届きにくい——そうした場所に人の出入りする玄関を置けば、傷みや汚れが目立ちやすかったわけです。

つまり鬼門の教えは、方位の吉凶というかたちを取りながら、当時の住まいで実際に手入れの難しかった場所を名指ししていた、という読み方ができます。

易の八卦を方位に当てる後天定位盤では、北東に艮(ごん)の卦があてられます。艮は山を象徴する卦とされ、季節でいえば冬から春へと移り変わる境目にあたると説明されます。動きの少ない山が、静かに次の季節へと移ろっていく——艮にはそうした性質が重ねられてきました。丑寅の刻限を由来とする鬼の姿の説明と、艮を山の卦とする八卦の対応は、系統としては別々のものですが、いずれも北東という方位に特別な意味を与えてきた点で共通しています。

実際の間取りでよくある形

北東に玄関が来る間取りには、いくつか典型的な形があります。いずれも設計として不自然な配置ではなく、条件から導かれた結果であることが多いといえます。

上が北
上が北。濃紺の面が玄関のあるあたりです。方位は建物の中心から見て割り出します。

道路が北側または東側に面している——玄関は道路側に向けるのが自然なので、敷地の形と道路付けによって北東に寄ることがあります。

南側に居室をまとめた間取り——日当たりのよい南面をリビングや寝室に割り当てると、玄関・水回り・階段が北側へ回ります。

集合住宅——共用廊下の位置で玄関の方位が決まるため、住戸単位では選びようがないことがほとんどです。

角地で二方向に道路が接する敷地でも、北側と東側の両方に接道する場合は、玄関が北東に寄りやすくなります。日当たりのよい南面を居室に確保しつつ、道路の取り付けの都合で玄関だけが北東側に回ることがあります。

旗竿地で通路が北東側に抜ける敷地でも、同じような配置になることがあります。二世帯住宅で親世帯と子世帯の玄関を分ける際に、片方が北東寄りになる例も見られます。

現代の住まいでの読み替え

現代の住宅は、断熱・気密・換気の水準が当時とは大きく異なります。北東の玄関が抱えていた実際の不便——冷え、湿気、暗さ——は、建物の性能でかなり解消されるようになりました。

そのうえで、いまも意味が残る点を挙げるとすれば、次のようになります。

暗くなりやすい——北東は日が差し込む時間が短いため、照明の計画を明るめにしておくと帰宅時の印象が変わります。

結露が出ることがある——冬場に外気との温度差ができやすいため、土間や下足入れの内部に湿気がこもらないようにしておくと傷みにくいとされます。

古典が「掃き清め、明るく風の通る状態に保つ」ことを説いたのは、こうした条件への対処だったと読むこともできます。

いっぽうで、北東は朝日が入るのが早い方位でもあります。夏場は東寄りの光が早朝から差し込むため、朝の身支度の時間帯に自然光を取り込みやすいという実利も指摘されます。冬は底冷えしやすいぶん、玄関ドアや土間まわりの断熱・気密を意識しておくと、朝の冷え込みによる負担が和らぎます。断熱・換気の水準が上がったいまの住宅では、方位による体感差そのものが小さくなる傾向もあるとされます。

お手元の間取り図では、どうでしょうか

玄関の方角と、水回り・建物の外形をあわせて拝見します

間取りの写真1枚で分かります

同じ北東でも変わること

家相では、玄関の方位だけで家全体を見るわけではありません。同じ北東の玄関でも、他の場所がどこにあるかで書かれていることは変わります。

鬼門 裏鬼門 宅の中心
上が北。家相で「三所」と呼ばれるのは、鬼門・裏鬼門・宅の中心の三つ。診断でも、間取り図をこの九つの区画に分けて見ています。

たとえば水回りが同じ北東に重なる場合。家相書では、三所に「三備」——竈・厠・井戸——を掛けないことが説かれており、玄関と水回りが同じ方位に集まる配置は、別の項目として扱われます。

建物の外形に北東の欠けがある場合も、その方位によって記述が変わります。逆に南東の玄関は、採光と通風の面から好まれるとされてきました。

北東に水回りが集まる間取りでは、玄関だけでなく浴室・トイレ・キッチンの配置もあわせて確認されます。三備を掛けないとする説は、単独の設備よりも、複数の設備が同じ方位に重なることを避ける考え方だったとされます。

隣接する北の玄関の玄関とは、家相での位置づけが異なります。北は坎(水)の象意で語られる一方、北東は鬼門として独立して扱われてきました。北東の裏側にあたる南西の玄関の裏鬼門とあわせて、対になる二方位として語られることもあります。

古くから採られてきた対処

古くは、玄関まわりを掃き清め、明るく風の通る状態に保つことが心がけられてきました。

ただし、具体的にどこをどう整えるかは間取りによって変わります。玄関の位置、水回りとの重なり、外形の欠けの有無——これらの組み合わせで、見るべき点は違ってきます。

掃除の頻度や具体的な手順は、玄関の広さや素材によっても変わってきます。ここでは要点だけを示していますが、水回りとの重なりや建物の欠けの有無によって、実際に注意すべき点はさらに細かく分かれるとされています。朝日が早く差し込み、冬は底冷えしやすい方位でもあるため、季節による手入れの差を意識しておくとよいとされます。

あなたの間取りで見るべき点は

玄関・水回り・建物の外形を、古典に照らして拝見します

間取りの写真1枚で分かります

典拠



鎌倉期『陰陽道旧記抄』の「竈、門、井、厠、者家神也」および江戸期の家相書(松浦東鶏『家相図解』『家相大全』ほか)に見られる、門戸を鬼門・裏鬼門に忌む説。

家相の「三所三備」(三所=鬼門・裏鬼門・宅の中心/三備=竈・厠・井戸)に三備を掛けないとする説。江戸期の家相書群(松浦琴鶴『家相一覧』天保四年 ほか)に見られます。

易の八卦を方位に当てる考え方(後天定位盤)。北=坎、北東=艮、東=震、南東=巽、南=離、南西=坤、西=兌、北西=乾

文献名までは特定していますが、原文・頁の照合は行っていません。表記を「〜に見られる」に留めているのはそのためです。

よくあるご質問

北東に玄関がある家は、買わないほうがよいのでしょうか

家相書の記述は流派によって幅があり、一律に判断できるものではありません。古典では、とりわけ注意して整えるべき場所とされてきた、という位置づけです。北東の玄関だけを理由に住まい選びを避けるべきだという記述は、ここで示す典拠には見当たりません。方位そのものよりも、玄関まわりがどう保たれているかを重く見る記述も見られます。水回りとの重なりや建物の欠けの有無もあわせて確認しておくと、判断の材料が増えます。

マンションで玄関の方位を選べません

集合住宅では共用廊下の位置で決まるため、住戸単位では選べないことがほとんどです。古典の記述も、選べる場合の指針として書かれたものです。戸建てのように敷地や道路付けから玄関の位置を選べる場合とは、そもそもの前提が異なります。選べない配置について、古典の教えをそのまま当てはめる必要はないという読み方もできます。玄関まわりの掃除と風通しを意識しておくことが、選べる・選べないに関わらずできる対処です。

すでに住んでいる場合、できることはありますか

古くは、掃き清めることと、明るさ・風通しを保つことが心がけられてきました。建物を変えずにできる範囲の話です。北東は朝日が早く差し込み、冬は底冷えしやすい方位でもあるため、玄関ドアや下足入れの内部に湿気がこもらないようにしておくことも意識されてきました。リフォームを伴わなくても、掃除の頻度や換気の習慣を変えるだけで対処できる範囲は残されています。

鬼門は北東だけですか

北東を鬼門、その反対にあたる南西を裏鬼門と呼びます。家相では、この北東と南西を結ぶ軸を、家の中でとりわけ注意して整えるべき線として重んじてきました。裏鬼門にあたる玄関については南西の玄関、北東の外形の凹みについては北東の欠けで、それぞれ別に扱っています。

案内役のイラスト

広げる。合わせる。照らす。

間取り図を広げ、方位を合わせ、古典に照らす。
あなたの一枚を、順に拝見します。

登録不要・所要 約1分

間取りの写真1枚で分かります