一
建物を真上から見て長方形の外形を思い描いたとき、西面のように一部が凹んでいる部分を、家相では「欠け」と呼びます。出っ張っている部分は「張り」と呼ばれ、江戸期の家相書には、この張りと欠けをあわせて建物全体の外形の吉凶を見る記述が残されています。
欠けの範囲には目安があるとされ、辺の長さのおおよそ3分の1程度までの凹みを欠けとし、それを超える凹みは間取りの一部が失われたものとして別に扱われる、という説明がされることが多いようです。凹みの深さや位置によって、西日の当たり方に応じた見立ての細かさも変わるとされています。
西は八卦でいう兌にあたり、沢や秋、夕方を表す方位とされます。実りのあとの静けさを象徴する方位ともいわれ、家相では欠けそのものの吉凶は方位によって意味合いが異なるとされており、西の欠けについても、ほかの方位とは異なる記述が古典に見られます。
家相書の記述は流派によって幅があり、欠けの深さや形、隣接する方位との組み合わせによって見立てが変わるとされています。西の欠けだけを取り出して、一律に良し悪しを判断できるものではないようです。
二
西に欠けがあることが、なぜ古くから注意されてきたのか。その理由は、日の巡りと住まいの使われ方の両方から説明されることが多いようです。
西は一日のうちでもっとも西日が長く差し込む方位で、伝統的な木造家屋では、夕方にかけて室内の温度が上がりやすく、建具や畳が日焼けしやすい場所ともされてきました。ここが凹んでいると、西日の入り方や風の通り道に偏りが生まれやすかった、と考えられています。
また、西は一日の終わりを表す方位として、静けさや落ち着きを重んじる場所とされることもありました。外形が凹んでいると、こうした落ち着いた居室が確保しにくくなる、という見立てがされてきたようです。夕暮れの光の入り方にも偏りが出やすく、家具や畳の日焼けが一部に集中しやすい点も気にかけられてきました。
秋の実りを終えたあとの静けさになぞらえて語られることもある方位だけに、家相書では、西の欠けを軽んじずに扱う記述が残されているとされます。つまり西の欠けをめぐる記述は、方位そのものの吉凶というよりも、西日という当時の住まいで実際に扱いにくかった条件への注意だった、という読み方ができます。夕方の暮らしやすさをどう保つかという、実際的な関心が背景にあったとも考えられています。
三
西に欠けが生じる間取りには、いくつか典型的な形があります。夕方の西日と隣家との距離をどう扱うかという判断の積み重ねから、結果として生じる形であることが多いといえます。
多いのは、西側で隣家と近接する敷地で、外壁を境界線から下げるために建物を後退させる設計です。外形としては西面の一部が凹んだ形になります。階段や浴室、トイレといった水回りを西面にまとめて配置し、居室部分を東側へ寄せた結果、西面が凹むケースも見られます。
西日を嫌って居室の窓を減らし、その分だけ外壁を後退させる設計も一因になります。旗竿地で西側の通路にあわせて建物の角を欠き取る間取りも、同様の形として現れます。北西の欠けで扱う北西の欠けと同時に生じる間取りもよくあります。
四
現代の住宅でも、西面は夕方の日差しをどう扱うかが設計上の課題になりやすい方位です。
西に欠けがあると、階段や水回りといった非居室部分が外壁の入り組んだ場所に集まりやすく、掃除や点検のための動線が複雑になることがあります。西日の遮熱については、遮熱ガラスや庇、樹木の配置で対処されることが多いものの、欠けの分だけ外壁面積が増えるため、断熱計画には注意が向けられます。夕方の照明計画や、窓の位置による眩しさの対策にも影響が出ることがあり、リビングの家具配置や座る位置の検討にもかかわってきます。
一方で、西の欠けを勝手口やサービスヤードとして活用すれば、居室の採光を損なわずに建物をコンパクトにまとめられることもあります。古典が触れてきた「夕方の落ち着き」は、現代では静かな個室や書斎の配置計画として置き換えて読むことができます。落葉樹を西側に植えて、夏は日差しを遮り冬は光を通すという工夫が取られることもあり、外構計画とあわせて検討されます。
五
同じ西の欠けでも、隣接する方位との関係で古典の記述は変わるとされます。北西寄りか南西寄りか、凹みの向きによって、あわせて読まれる記述も変わってくるようです。
欠けが北西寄りに広がる場合は、北西の欠けで扱う北西の欠けとあわせて見られることがあります。南西寄りに広がる場合は、裏鬼門の記述(南西の欠け)との兼ね合いで語られることもあるようです。
西に玄関を構える間取り(西の玄関)では、開口部の位置と外形の欠けが同じ間取りに重なることがあります。両者は古典のなかでは別の項目として扱われますが、実際の設計では同時に検討されることが少なくありません。庇や外構の工夫が両方に共通する対処として語られることもあります。
六
古くは、夕方の日差しが長く届く西の欠けを物置にせず、日焼けを防ぐ明るい状態に保つことが心がけられてきました。西の欠けについては、西日と湿気がこもらないよう、風通しを保つことが重ねて説かれてきたようです。
マドラバの無料診断でも、欠けは西を含む8方位のいずれも指摘の対象から外していません。ただし判定は「方位によって意味合いが異なるとされます」という伝聞形の説明にとどまり、西だからといって特別に重い断定はされていません。
七
江戸期の家相書(松浦東鶏『家相図解』ほか)に見られる建物外形の「張り・欠け」論
易の八卦を方位に当てる考え方(後天定位盤)。北=坎、北東=艮、東=震、南東=巽、南=離、南西=坤、西=兌、北西=乾
文献名までは特定していますが、原文・頁の照合は行っていません。表記を「〜に見られる」に留めているのはそのためです。
八
西の欠けをめぐる家相書の記述には流派による幅があり、一律には言えないとされています。西の欠けについても、方位によって意味合いが異なるという伝聞形の記述にとどまり、断定的に避けるべきとはされていません。西面だけでなく間取り全体のバランスのなかで見られることが多いようです。
西面の外形そのものが凹んでいるかどうかで判断されます。距離を取るための後退であっても、外形として凹んでいれば欠けに数えられる場合があるとされ、設計の意図や成り立ちの理由は問わないとされています。図面の輪郭を見て判断される点は共通しているようです。
窓の数や大きさは開口部の話で、欠けは外形の凹みそのものを見るものです。古典では別の項目として扱われますが、同じ間取りで両方が検討され、あわせて記述されることはあるようです。開口部と外形は、家相書のなかでもそれぞれ別の視点から見られてきました。
通路部分の扱いは間取り全体の形によって変わるとされています。建物本体の外形が凹んでいるかどうかが、まず見られる点で、通路そのものは敷地の形として別に扱われることが多いようです。建物本体だけの輪郭が判断の基準とされ、通路の幅や長さそのものは問われないことが多いようです。