一
家の外形を上から見たとき、長方形の輪郭よりも内側に引っ込んでいる部分が「欠け」、外側にはみ出している部分が「張り」と、家相では呼び分けられています。江戸期の家相書には、この張りと欠けを手がかりに建物全体の吉凶を見る記述が残されています。
どこまでを欠けと見るかにも目安があり、辺の長さに対しておおよそ3分の1程度までの凹みであれば欠けとし、それより深く凹んでいる場合は間取りそのものが一部失われたものとして扱いを分ける、という説明が多く見られます。
北西は八卦でいう乾にあたり、天や父、家の主人を表す方位とされます。家のなかでもっとも重んじられる方位のひとつともいわれ、家相では、欠けそのものの吉凶は方位によって意味合いが異なるとされており、北西の欠けについては、重んじられる方位であるだけに独自の記述が古典に見られます。
家相書の記述は流派によって幅があり、欠けの大きさや形、ほかの場所との組み合わせによって見立てが変わるとされています。北西の欠けだけを取り出して、一律に良し悪しを判断できるものではないようです。
二
北西に欠けがあることが、なぜ古くから注意されてきたのか。その理由は、方位の位置づけと住まいの使われ方の両方から説明されることが多いようです。
乾は天や父、家の主人を表すとされ、家相のなかでも重んじられる方位のひとつでした。ここが凹んでいると、家全体を象徴するとされる方位が欠けてしまう、という見立てがされてきたようです。家の中心を支える柱に見立てられることもあったとされ、家長の座る場所として意識されることもあったといわれます。
また、伝統的な木造家屋にとって北西は、冬場に北からの季節風を受けやすい方位でもありました。外形がここで凹んでいると、外壁の入り組みが増え、隙間風や冷え込みが偏って生まれやすかった、と考えられています。日が短い時期には、この凹みの部分に影が長く落ちることも重ねて指摘されてきました。
重んじられる方位であることと、実際の暮らしのなかで寒さがこもりやすかったことの両方が、北西の欠けをめぐる記述には重なっていると見られます。つまりこの記述は、方位の位置づけの重さと、冬場の寒さという住まいの実際の条件の両方が合わさって語られてきた、という読み方ができます。家の要とされる場所ほど、丁寧に整えるべきだという考え方が背景にあったとも考えられています。
三
北西に欠けが生じる間取りには、いくつか典型的な形があります。こうした配置は無理につくられたものではなく、北西特有の駐車スペースや道路斜線への対応から自然に生まれた結果であることが多いといえます。
多いのは、敷地の北西角にビルトインガレージや駐車スペースを設け、建物本体をその分だけ後退させる設計です。外形としては北西の隅が四角く凹んだ形になります。北側斜線制限や道路斜線の影響で、建物の北西側を削るように設計されるケースも見られます。
寝室や納戸といった居室以外の部屋を北西に寄せ、その分だけ外壁を後退させる間取りも一因になります。旗竿地で北西側の敷地形状にあわせて建物の角を欠き取る設計も、同様の形として現れます。隣り合う西の欠けの西の欠けと、同時に生じる間取りもよくあります。
四
現代の住宅でも、北西面は冬場の冷え込みと駐車スペースの確保が設計上の課題になりやすい方位です。
北西に欠けがあると、収納や設備スペースが外壁の入り組んだ場所に集まりやすく、断熱ラインが複雑になることがあります。冬場の冷え込みについては、断熱材の厚みや気密施工で対処されることが多いものの、欠けの分だけ外壁面積が増えるため、熱損失の計画には注意が向けられます。窓の配置や玄関ホールの寒暖差にも関わってくる部分で、廊下や北側の居室の冷え込みが、暮らし始めてから指摘されることもあるようです。
一方で、北西の欠けを駐車スペースや物置として活用すれば、居室の断熱性能を保ちながら建物をコンパクトにまとめられることもあります。古典が触れてきた「家を支える方位」という位置づけは、現代では収納計画や動線計画の要となる場所として置き換えて読むことができます。冬場の玄関ホールに冷気だまりができにくいよう、断熱ドアや風除室を設ける工夫が添えられることもあります。
五
同じ北西の欠けでも、隣接する方位との関係で古典の記述は変わるとされます。北寄りか西寄りか、凹みがどちらに寄っているかによって、あわせて読まれる記述も変わってくるようです。
欠けが西寄りにまで広がっていれば、西の欠けで扱う西の欠けの記述とあわせて読まれることがあります。北寄りに広がる場合は、冬場の冷え込みという共通のテーマ(北の欠け)とセットで語られることもあるようです。
北西に玄関を構える間取り(北西の玄関)では、家の主人を表すとされる方位の玄関と、外形の欠けの記述が同じ間取りに重なることがあります。この二つは古典のなかでは別の項目として立てられていますが、実際の設計では同時に検討されることが少なくありません。玄関まわりの明るさを保つ工夫が、両方に共通する対処として語られています。
六
古くは、冬の季節風が吹き込みやすい北西の欠けを物置にせず、隙間風のこもらない明るい状態に保つことが心がけられてきました。北西の欠けについては、特に冷えや隙間風がこもらないよう、整えておくことが重ねて説かれてきたようです。
マドラバの無料診断でも、欠けは8方位いずれも区別なく指摘の対象としています。ただし判定は「方位によって意味合いが異なるとされます」という伝聞形の説明にとどまり、北西だからといって特別に重く断定されるわけではありません。
七
江戸期の家相書(松浦東鶏『家相図解』ほか)に見られる建物外形の「張り・欠け」論
易の八卦を方位に当てる考え方(後天定位盤)。北=坎、北東=艮、東=震、南東=巽、南=離、南西=坤、西=兌、北西=乾
文献名までは特定していますが、原文・頁の照合は行っていません。表記を「〜に見られる」に留めているのはそのためです。
八
北西の欠けをめぐる家相書の記述には流派による幅があり、一律には言えないとされています。北西の欠けについても、方位によって意味合いが異なるという伝聞形の記述にとどまり、断定的に避けるべきとはされていません。間取り全体のバランスのなかで判断されることが多いようです。
建物の外形として凹んでいれば欠けとして数えられることもありますが、古典の記述は方位ごとに意味合いが異なるとされ、北西の駐車スペースという用途そのものが問題視されるわけではないようです。駐車動線としての合理性もあわせて見られてきたとされ、一律に凶と断じられるわけではありません。
八卦の考え方で、乾は天や父、家の主人を表すとされてきました。家相のなかでも重んじられる方位のひとつとして扱われてきた、という位置づけであり、方位そのものを凶とする趣旨ではないようです。重んじる分だけ丁寧に扱う、という考え方に近いとされます。
建物の外形として凹んでいれば、その成り立ちにかかわらず欠けとして見られることがあるとされています。設計上の制約による凹みであっても、意図的な凹みと同様の記述の対象として扱われるようで、成り立ちの違いそのものは特に問われないとされているようです。