部屋別の家相
浴室は家相の「三備」のひとつ、井戸に連なる水回りとして語られてきました。湿気をためず乾かすことが重んじられてきた背景と、ユニットバスや24時間換気で暮らす今の住まいでの読み替えを、洗面・脱衣所とあわせて見ていきます。
一
浴室は、家相の「三備」を構成する井戸——水を汲み上げる場所——の系統に連なる水回りとして扱われてきました。三備は竈・厠・井戸の三つを指し、鬼門・裏鬼門・宅の中心という三所に重ねないほうがよいとされてきた設備です。
かつて風呂は井戸の水を汲んで沸かすものであり、井戸とひと続きの水の設備でした。今のように蛇口をひねれば給湯される暮らしとは、水の扱い方そのものが違っていたことがうかがえます。
洗面所や脱衣所は、浴室そのものとは別の場所ですが、水を使い湿気がこもりやすいという性質は共通しています。この記事では、浴室を中心に、洗面・脱衣所とあわせて見るべき点を扱います。
かつての住まいでは、風呂そのものを持たない家も多く、井戸端や共同浴場で身体を清めることも珍しくありませんでした。自宅に浴室を備えることが一般化したのは、上下水道が整備された近代以降のことで、それ以前の家相の記述は、井戸という水源そのものを主な対象としてきた面があります。浴室という部屋の単位で語られるようになったのは、むしろ比較的新しい住まい方の変化だといえます。
二
浴室が三備の系統として重んじられてきた背景には、湿気がとどまりやすいという実際上の弱点があったと考えられています。木造の住まいでは、水を使う場所に湿気がこもれば、柱や床が傷みやすく、カビも発生しやすくなります。
鬼門・裏鬼門は日が差しにくく風も通りにくい方位とされ、そこに浴室を重ねれば、乾きにくさがいっそう増すという実際上の不都合があったはずです。宅の中心に浴室があれば、湿気が家の奥深くにとどまり、抜けにくくなるという見立てもできます。
江戸期の家相書群には、三備を三所に掛けないとする説が繰り返し記されています。浴室に限らず水回り全般に通じる考え方として、乾かすことの重みが説かれてきたと読むことができます。井戸そのものを浴室に見立てるのではなく、水を扱う場所という系統でとらえられてきた点が、竈や厠とは少し違う位置づけだといえます。
水は生活に欠かせない一方で、扱いを誤れば建物を傷める材料にもなります。井戸を三備のひとつに数えた考え方の根には、水そのものへの敬いと、管理を怠れば害になるという両面の見方があったと考えられ、浴室が水回りとして重んじられてきた背景にも、同じ両面の見方が受け継がれているといえます。清めの場であると同時に、湿気の発生源でもあるという二面性は、井戸から浴室へと形を変えたいまも変わっていません。
三
間取り図で浴室の家相を見るときは、まず北を上にして北東・南西の線を確認し、浴室がこの線に近いかどうかを見ます。トイレやキッチンと同じ手順で、方位区画に浴室が入るかどうかを確かめます。
浴室が宅の中心——建物をおおむね九つに分けたときの真ん中——に近いかどうかも、あわせて見られてきました。洗面所・脱衣所は浴室と隣接することが多いため、浴室単体だけでなく、水回り全体がどこに集まっているかを見る視点も持っておくとよいとされます。
集合住宅では、パイプスペースの位置によって浴室の配置がほぼ決まっている住戸が多く、選びようのない配置であることも珍しくありません。
洗面所・脱衣所については、浴室ほど厳密に方位を測る対象としては扱われてきませんでしたが、浴室に隣接する場所として、あわせて風通しを確認しておくとよいとされます。窓の有無、換気扇の位置、洗濯機置き場との重なりも、実際の暮らしやすさに直結する点です。浴室・洗面・トイレが一室にまとまった間取りでは、水回り全体をひとつの区画として見る視点も必要になります。
四
ユニットバスと24時間換気システムが標準になった今の住まいでは、湿気がこもりやすいという浴室の弱点は、設備でかなり解消されています。防カビ性能の高い素材や、乾燥機能付きの浴室暖房乾燥機を備えた住戸も増えました。
それでも意味が残るとすれば、使ったあとに乾かすという所作の面です。入浴後に換気扇を回し続ける、水気を切ってドアを開けておく、といった習慣は、湿気をためないことが説かれてきた古典の考え方と目的の点でつながっています。
洗面所・脱衣所は浴室よりも換気が弱くなりがちな場所です。タオルや洗濯物が湿気を含んだままとどまりやすく、浴室が乾いていても脱衣所側に湿気が残っていることは少なくありません。浴室と脱衣所をあわせて風の通り道を確保しておくと、水回り全体として乾きやすい状態を保ちやすくなります。
洗濯機を脱衣所に置く間取りが一般化したことで、この場所に求められる換気の量そのものも増えています。井戸端で水を扱っていた時代とは規模が違いますが、水を扱う場所を乾いた状態に保つという目的は、今も変わらず引き継がれているといえます。
五
「浴室が鬼門にあれば必ず家が傷む」といった言い切りは、ここで示す典拠には見当たりません。家相書の記述には流派による幅があり、方位そのものより、乾かす手入れがどう保たれているかを重く見る記述も見られます。
「防水と換気扇があれば方位は関係ない」という受け止め方も、行き過ぎた単純化です。設備が湿気の量を減らしても、乾かすという所作そのものの意味づけは、古典の記述と地続きだと読むことができます。
「浴室さえ確認すれば水回りは万全」という理解も粗い見方です。洗面所・脱衣所を含めた水回り全体の配置まで見て、はじめて家相でいう水回りの見立てに近づくとされています。
「浴室が水回りだから、井戸そのものについての記述と完全に同じ扱いをすべきだ」という受け止め方も、実際とは少し異なります。井戸は水源そのものを指す設備であり、浴室は水を使って身体を清める場所です。系統は連なっていますが、家相書が個別に触れてきた度合いには違いがあるとされます。
六
無料の見立てが見ている範囲
マドラバの無料の見立ては、浴室が鬼門(北東)・裏鬼門(南西)にあたるかどうかを拝見しています。ここは無料でも確認できる範囲です。一方で、浴室が宅の中心にあたるかどうかの判定は、間取り図から中心の位置を割り出す作業を伴うため、完全版レポートで扱う範囲になっています。なお洗面所・脱衣所そのものは、無料の見立ての対象には含まれていません。
七
準備中です。まずは無料の見立てからどうぞ。
八
家相の「三所三備」(三所=鬼門・裏鬼門・宅の中心/三備=竈・厠・井戸)に三備を掛けないとする説。江戸期の家相書群(松浦琴鶴『家相一覧』天保四年 ほか)に見られます。
鎌倉期『陰陽道旧記抄』の「竈、門、井、厠、者家神也」および江戸期の家相書(松浦東鶏『家相図解』『家相大全』ほか)に見られる、門戸を鬼門・裏鬼門に忌む説。
文献名までは特定していますが、原文・頁の照合は行っていません。表記を「〜に見られる」に留めているのはそのためです。
九
家相の記述には流派による幅があり、一つの正解として決めつけられるものではありません。古典では、井戸に連なる水回りとして三所に重ねないほうがよいとされてきましたが、方位そのものより、乾かす手入れがどう保たれているかを重く見る記述も見られます。浴室が北東・南西にあたるかどうかは、マドラバの無料の見立てでも確認いただけます。
無料の見立ての対象は浴室・トイレ・キッチンの3設備で、洗面所・脱衣所は単体では含まれていません。ただし浴室と隣接していることが多く、湿気の抜け方という点ではあわせて考える価値があるとされます。水回り全体の重なりを詳しく見る場合は、完全版レポートの範囲になります。
浴室が宅の中心にあたるかどうかまでは、無料の見立ての対象には含まれていません。中心の位置を割り出すには建物全体の外形を読み取る作業が要るため、完全版レポートで扱う範囲としています。北東・南西にあたるかどうかであれば、無料の見立てでご確認いただけます。
設備によって、湿気がこもりやすいという浴室の弱点の多くは解消されているとされます。そのうえで、使ったあとに乾かすという所作の面では、古典の記述といまも地続きだという読み方ができます。住まい方や好みに応じて、どこまで意識するかを決めればよい範囲だといえます。