部屋別の家相
日常の動線から外れ、扉を開ける頻度も少ない場所です。家相書がどこまでこの場所を語ってきたか、現代の収納にどう当てはめられるかを、典拠とともに整理します。
一
納戸や物置、クローゼットといった収納は、家の中でもとりわけ人の出入りが少ない場所です。衣類や季節用品、普段は使わない道具をしまっておく場所として、多くの住まいに設けられています。押し入れや床下収納、屋根裏の物置なども、扱いとしては同じ範疇に入ります。
家相では、収納そのものを名指しして論じた記述は多くありません。家相書が繰り返し取り上げてきたのは、竈(かまど)・門・井戸・厠(かわや)といった、火や水を扱う設備や人の出入りする場所です。納戸はこれらのいずれにも当てはまらないため、家相書の中心的な関心からは外れた場所だったといえます。居室や寝室のように人が長く過ごす場所とも違い、あくまで補助的な空間として位置づけられてきました。
とはいえ、鬼門・裏鬼門にあたる区画をどう使うかという文脈で、収納や物置が話題にのぼることはあります。日常の動線から外れ、扉を開ける頻度も少ないぶん、空気がこもりやすく、手入れが後回しになりやすいためです。家相が重んじてきた「明るく風の通る状態を保つ」という考え方に照らすと、納戸はもっとも実践が難しい場所のひとつともいえます。名指しされていないからこそ、かえって見落とされやすい場所だという見方もできます。
二
家相の「三所三備」という考え方では、鬼門・裏鬼門・家の中心という三つの場所(三所)に、竈・厠・井戸という三つの設備(三備)を重ねないことが説かれてきました。江戸期の家相書群に見られる説です。
ここで名指しされているのは竈・厠・井戸に限られ、納戸や物置はこの三備には含まれていません。鎌倉期『陰陽道旧記抄』が「竈、門、井、厠、者家神也」として挙げた対象も同様で、人の出入りの多い門戸と、火や水を扱う設備に限られています。
そのうえで、鬼門にあたる場所を掃除の行き届きにくい物置にすることも、あわせて避けるのがよいと言われることがあります。三所三備の説明が根底に置いているのは「鬼門・裏鬼門・宅の中心はとりわけ丁寧に整えるべき場所」という考え方であり、名指しの対象でなくても、手入れが行き届かない使い方は同じ理屈で避けられてきたと読むことができます。
こうした説明の背景には、当時の住環境の事情も重なっていたと考えられています。木造家屋で風通しの悪い納戸は、湿気がこもりやすく、ものが傷みやすい場所でした。人の出入りが少ないぶん異変に気づきにくく、放置されればされるほど手入れの差が大きく開く場所だった、という読み方ができます。北向きや家の奥まった位置に納戸を設ける間取りも多く、日が差しにくいという条件が重なると、いっそう手入れの差が出やすかったと考えられます。
江戸期から明治期にかけて家相書が広く流布したとされる出版事情からも、家全体の使い方が大工と施主の共有知識として扱われてきたことがうかがえます。
三
間取り図から見立てる場合、まず確認するのは納戸・クローゼット・パントリーといった収納がどの区画にあたるかです。玄関や水回りと同じように、家の中心(宅心)から見て8方位のどこに位置するかを割り出します。収納が複数ある家では、それぞれの位置を一つずつ確認していく必要があります。
次に、その区画が鬼門(北東)・裏鬼門(南西)にあたるかどうかを見ます。あたる場合は、三所三備の考え方に照らして、掃除と換気が行き届く状態を保てているかが論点になります。扉を開ける頻度が低い場所ほど、意識して確認する必要があります。
あわせて、建物外形の欠け(張り欠け)と重なっているかどうかも確認します。外形の凹みにあたる区画がそのまま物置になっている間取りは、家相書の張り欠け論と、鬼門を物置にしないとする説の双方に関わってきます。欠けの区画を収納にすることで居室から遠ざける、という設計上の工夫が結果的に取られている例も見られます。
マンションの場合は、床下収納やパントリー、廊下沿いの納戸など、専有部分の中で比較的自由に位置が決まる収納から見ていくと、方位の傾向をつかみやすくなります。共用廊下側に面した収納は、玄関と近い方位に集まりやすい傾向もあります。
四
現代の住まいでは、ウォークインクローゼット、パントリー、床下収納、階段下収納など、収納の形そのものが江戸期とは大きく異なります。断熱・気密の水準も上がり、当時ほど湿気がこもりにくくなっている住宅も増えました。マンションの床下収納のように、コンクリート躯体に囲まれて温度変化が少ない収納も一般的になっています。
それでも変わらない点として挙げられるのは、開閉頻度の低さです。日常的に人が出入りする居室と違い、収納は数日〜数週間開けないことも珍しくありません。空気が動かない時間が長いぶん、湿気やにおいがこもりやすい傾向は今も指摘されます。季節家電や衣替えのタイミングでしか扉を開けない収納は、とりわけこの傾向が強く出ます。
除湿機や換気扇、調湿建材の普及によって、当時ほど深刻な傷みは避けやすくなりました。そのうえで、季節の変わり目に収納の扉を開けて空気を入れ替える、湿気取りを置く、といった習慣は、古典が説いてきた「明るく風の通る状態を保つ」という考え方の延長線上にあると読むこともできます。収納の中にものを詰め込みすぎないことも、空気の通り道を確保するという意味では同じ方向の工夫といえます。
五
よくある誤解のひとつが、「鬼門には何も置いてはいけない」という受け止め方です。家相書が名指ししたのは竈・門・井戸・厠に限られ、納戸や収納はこの対象に含まれていません。鬼門にあたるからといって、収納として使うこと自体を避けるべきだという記述は、ここで示す典拠には見当たりません。むしろ、人の出入りが少ない収納を鬼門の区画に充てること自体は、間取り上ごく自然な選択のひとつだといえます。
逆に、「収納だから多少手入れが行き届かなくても構わない」と考えるのも、家相書の趣旨からは外れます。三所三備の説明が繰り返し強調してきたのは、鬼門・裏鬼門・宅の中心はとりわけ丁寧に整えるべき場所だということであり、そこに何を置くかよりも、どう保たれているかが重んじられてきました。収納だからこそ油断せず、扉の内側の状態まで意識するのが本来の趣旨に近いといえます。
六
無料の見立てが見ている範囲
マドラバの無料の見立ては、玄関と水回り(浴室・トイレ・キッチン)が鬼門・裏鬼門にあたるか、建物の外形に欠けがあるかの3点を拝見しています。納戸・物置・収納は、この見立てには含まれていません。間取り図から収納の位置を読み取り、鬼門や欠けとの重なりを見立てるのは、完全版レポートで扱う範囲になります。収納は名指しの対象ではないぶん、見立ての精度を実測できていない項目でもあります。
七
準備中です。まずは無料の見立てからどうぞ。
八
鎌倉期『陰陽道旧記抄』の「竈、門、井、厠、者家神也」および江戸期の家相書(松浦東鶏『家相図解』『家相大全』ほか)に見られる、門戸を鬼門・裏鬼門に忌む説。
家相の「三所三備」(三所=鬼門・裏鬼門・宅の中心/三備=竈・厠・井戸)に三備を掛けないとする説。江戸期の家相書群(松浦琴鶴『家相一覧』天保四年 ほか)に見られます。
江戸期の家相書(松浦東鶏『家相図解』ほか)に見られる建物外形の「張り・欠け」論。
江戸期から明治期にかけて家相書が広く流布し、大工の手引きとして用いられたとされる出版事情。
文献名までは特定していますが、原文・頁の照合は行っていません。表記を「〜に見られる」に留めているのはそのためです。
九
家相書が竈・門・井戸・厠として名指ししたのは、火や水を扱う設備と人の出入りする場所に限られます。納戸や収納はこの対象には含まれていません。ただし、鬼門にあたる場所を掃除の行き届きにくい物置にすることは、あわせて避けるのがよいと言われることがあります。方位そのものより、その場所がどう保たれているかが重んじられてきました。
クローゼットや押し入れも、家相書の中では収納と同じ位置づけで語られてきました。名指しの対象ではないという点は共通していますが、扉を開ける頻度が低く空気がこもりやすいという性質も同じです。鬼門・裏鬼門にあたる場合は、季節の変わり目に空気を入れ替える習慣が心がけられてきました。
マンションでは専有部分の間取りによって収納の位置が決まるため、戸建てのように敷地から選ぶ余地はありません。方位が鬼門・裏鬼門にあたる場合でも、家相書は収納そのものを禁じているわけではなく、湿気やにおいがこもらない状態を保つことが心がけられてきました。