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北の欠け

張欠考

北は家相で坎(水)の方位とされてきました。日照に乏しく冷え込みやすいこの方位の外形が凹んでいる場合、古典で何が語られ、今の住まいでどう読み替えられるのかを見ていきます。

北東 南東 南西 西 北西 鬼門 裏鬼門

古典ではこう言われます

北は、易の八卦で坎にあたる方位とされます。坎は水を象るとされ、一年でいえば冬にあたる方位という位置づけが与えられてきました。

家相の「張り・欠け」論では、建物を真上から見た外形が長方形から外側へ出ている部分を張り、内側へ凹んでいる部分を欠けと呼びます。江戸期の家相書には、この張りと欠けの位置によって記述を変える考え方が見られ、張りは家の力が集まりやすい場所、欠けはその力が及びにくい場所として対比的に語られることがあるとされます。北の凹みのように冷えや湿気がこもりやすい面では、この目安がおおよそ辺の三分の一程度までとされることが多いようですが、線引きは流派によって幅があります。

北の欠けについては、坎が象るとされる水や冷えの性質と結びつけて語られることがあるとされます。玄関や水回りが特定の部屋の位置に注目するのに対し、欠けは建物全体の輪郭を問う考え方であり、冬に日が差しにくい北面ではこの視点が特に重んじられてきたとされます。もっとも、坎の性質を機械的に当てはめる断定ではなく、古典の記述にも幅があるとされています。

なぜそう言われるのか

張り・欠けという考え方の土台には、八卦を方位に配当する後天定位盤という枠組みがあります。この盤では北に坎があてられ、坎は水・冬という性質を象るとされてきました。冬の寒さや水気と結びつけられてきたことが、北という方位の吉凶を語る際の出発点になってきたとされます。

家の外形において、なぜ欠けが取り上げられてきたのかについては、いくつかの読み方があります。北の欠けについては、角が失われることで坎の象るとされる水・冷えの性質が定まりにくくなる、という説明がひとつです。もうひとつは、単純に、外形が凹んでいる部分は雨や霜が集まりやすく、日ごろの手入れが行き届きにくかった、という当時の住環境に即した読み方です。

北は一日を通して日が差しにくく、冬は冷え込みやすい方位でした。この方位に凹みがあれば、雨だれや霜がたまりやすく、他の面よりも傷みが早かったであろうことは想像できます。木造家屋では、こうした場所の板壁や基礎が湿気を含みやすく、傷みの進み方にも差が出たと考えられます。家相書が広く流布し、大工の手引きとして用いられていたとされる出版事情もあり、こうした実務上の勘所が、坎の象意と結びつけて語り継がれてきた、という見方もできます。

つまり北の欠けの教えは、方位の吉凶というかたちを取りながら、実際に手入れの難しかった場所を名指ししていた、という読み方ができます。

実際の間取りでよくある形

北に欠けが生じる間取りには、いくつかの典型的な形があります。

上が北
上が北。朱の面が建物の欠けにあたるあたりです。外形の凹みが建物のどの区画にかかるかで見ます。

ひとつは、北側斜線制限のかかる敷地で、上階の北側を後退させた結果、平面としても北側が凹む形です。もうひとつは、階段や納戸、洗面といった居室でない部屋を北側にまとめて配置し、その一角を外形から切り欠くように設計した形です。北側に道路が接し、駐車スペースを建物の外に確保するために、北側の隅を凹ませて敷地を分けた例も見られます。さらに、隣地の建物との距離を取るために北側の角だけを控えさせた、いわゆるセットバックの結果として欠けが生じることもあります。

北側斜線による後退や、居室でない部屋を寄せる考え方は、北西の欠けで触れる北西の欠けとも共通する事情です。いずれも、日当たりのよい南面を広く取りたいという設計上の要望や、道路・隣地との関係から導かれた結果であることが多いといえます。

現代の住まいでの読み替え

現代の住宅は断熱・気密の水準が向上し、北面の冷え込みそのものは家相書が書かれた当時とは大きく異なります。それでも、北の欠けについて、いまも意味が残ると思われる点を挙げるとすれば、次のようになります。

北は日照が乏しく気温が下がりやすい方位のため、外形が凹んだ部分は外気に接する面がその分増えます。断熱・気密の弱い箇所があると、そこが熱橋になりやすいとされ、結露が生じやすくなる場合があります。凹みの内側に収納や設備スペースを寄せる間取りは、日照を必要としない用途を日当たりの乏しい場所にあてる配置であり、居室の断熱性能を保つうえでは理にかなった考え方ともいえます。

また、外形が凹んだ角は、雨仕舞いの面でも谷になりやすく、雨水の集まり方に注意が向けられることがあります。北側は乾きにくい方位でもあるため、凹みの底に水が滞留すると、外壁や基礎の傷みにつながりやすいとされます。北の欠けを整えるという古典の教えは、乾きにくいこの方位ならではの手入れの難しさを指していたと読むこともできます。北側に設備配管をまとめる現代の間取りも、同じ理由から理にかなっているとされることがあります。

お手元の間取り図では、どうでしょうか

玄関の方角と、水回り・建物の外形をあわせて拝見します

間取りの写真1枚で分かります

同じ北でも変わること

外形の欠けという一点だけを取り出して家全体を判断することは、家相ではあまりされてきませんでした。同じ北の欠けでも、他の場所がどこにあるかによって書かれていることは変わります。

鬼門 裏鬼門 宅の中心
上が北。家相で「三所」と呼ばれるのは、鬼門・裏鬼門・宅の中心の三つ。診断でも、間取り図をこの九つの区画に分けて見ています。

北の玄関のように玄関そのものが北にある場合と、玄関は別の方位にあって外形だけが北で欠けている場合とでは、家相書の記述の重ね方が異なるとされます。玄関と欠けが同じ北に重なる間取りでは、両方の記述をあわせて読む必要があるとされ、片方だけを見ても全体像はつかめません。欠けが北東の角にまで広がっていれば、北東の欠けで触れる鬼門の記述と重ねて語られることが多いとされます。

つまり、欠けの位置がどこであるかだけでなく、玄関や水回りとどう重なっているかによって、家相書の注意点は変わってくるということです。

古くから採られてきた対処

古くは、日の当たりにくい北の欠けを物置にせず、湿気をため込まない明るい状態に保つことが心がけられてきました。北の欠けについては、湿気や冷えがこもらないよう、風を通し、水気を残さないようにすることが説かれてきたとされます。

マドラバの無料診断でも、外形の欠けは方位を問わず指摘の対象としていますが、方位によって意味合いが異なるとされる、という伝聞形の位置づけにとどまります。北の欠けをどう整えるかも、結局は間取り全体の組み合わせのなかで判断されてきたとされます。

あなたの間取りで見るべき点は

玄関・水回り・建物の外形を、古典に照らして拝見します

間取りの写真1枚で分かります

典拠



江戸期の家相書(松浦東鶏『家相図解』ほか)に見られる建物外形の「張り・欠け」論

易の八卦を方位に当てる考え方(後天定位盤)。北=坎、北東=艮、東=震、南東=巽、南=離、南西=坤、西=兌、北西=乾

江戸期から明治期にかけて家相書が広く流布し、大工の手引きとして用いられたとされる出版事情

文献名までは特定していますが、原文・頁の照合は行っていません。表記を「〜に見られる」に留めているのはそのためです。

よくあるご質問

北に欠けがある家は、住まないほうがよいのでしょうか。

北の欠けをめぐる記述は流派によって幅があり、一律に判断できるものではありません。古典では、坎が象るとされる水や冷えの性質と結びつけて語られることがある、という位置づけです。凹みそのものより、そこに湿気や冷気がこもらず保たれているかを重く見る記述も見られます。実際にどう読むかは、間取り全体の組み合わせを見たうえで判断されてきたとされます。

欠けと張りは、どう違うのですか。

建物を真上から見た外形のうち、長方形から外側に出ている部分を張り、内側に凹んでいる北の面のような部分を欠けと呼びます。目安としては辺の長さのおおよそ三分の一程度までとされることが多いようですが、どこまでを欠けと見るかは流派によって幅があり、一律の基準はありません。

マンションでも欠けは判断できますか。

集合住宅は住戸単位の専有部分が建物全体の外形の一部にしかあたらないことが多く、外形として欠けを見立てることが難しい場合があります。家相書の記述の多くは、一戸建てのように建物全体の輪郭を見渡せることを前提に書かれてきたと考えられます。そのため、マンションでは欠けよりも玄関や水回りの方位を中心に見る記述が多いとされます。

北の欠けは、他の方位の欠けより注意すべきですか。

欠けの意味合いは方位によって異なるとされ、坎にあたる北がほかの方位より一律に重いとする記述は見当たりません。水や冷えの性質と結びつけて語られることがある、という程度の位置づけにとどまり、他の方位の欠けと比べて特別に重く扱われてきたわけではないと考えられています。

案内役のイラスト

広げる。合わせる。照らす。

間取り図を広げ、方位を合わせ、古典に照らす。
あなたの一枚を、順に拝見します。

登録不要・所要 約1分

間取りの写真1枚で分かります