敷地と建物の要素
家の中心に吹き抜けや中庭があり、そこだけ天井や壁が「抜けている」間取りについて、家相でどう語られてきたかを整理します。
一
吹き抜けや中庭は、天井や床の一部を設けず、家の中を上下または内外に「抜いた」空間です。リビングの上部を2階まで開放する吹き抜け、建物の中央に光と風を取り込む中庭——形は違っても、建物の中心付近が閉じた部屋でなく開いた空間になっている点は共通しています。
吹き抜けはリビング階段や勾配天井と組み合わされることが多く、中庭はコの字型やロの字型に建物を配置した間取りでよく見られます。いずれも、部屋数を確保しながら採光や開放感を得るための設計上の工夫として選ばれることが少なくありません。
家相の古典には、吹き抜けや中庭という言葉そのものを名指しした記述は見当たりません。ここで手がかりになるのは、家の中心(宅心)を重んじる考え方です。家相では、鬼門・裏鬼門とならぶ「三所」の一つとして宅の中心が扱われ、そこに火や水を扱う設備を重ねないほうがよいとされてきました。中心をどう扱うかという関心は、間取りの時代を問わず共通しています。
吹き抜けや中庭は設備ではなく空間そのものですが、家の中心付近がどうなっているかという関心の延長として語られることがあります。この記事では、その延長線上で何が言えて何が言えないのかを、典拠に沿って整理します。
二
家相で宅の中心が重んじられてきた背景には、「三所三備」という考え方があります。三所とは鬼門・裏鬼門・宅の中心の3か所を指し、三備とは竈・厠・井戸の3つの設備を指します。江戸期の家相書群には、この三備を三所に重ねないことがよいとする説が見られます。
宅の中心は、家全体の基準点として測られる場所でもあります。方位を測るとき、どこを起点に八方位を割り振るかが定まらなければ、鬼門も裏鬼門も定まりません。中心が家の中で重く扱われてきたのは、単に象徴的な場所というだけでなく、測定の基準そのものだったからだと考えられます。易の八卦を方位に当てる後天定位盤でも、中心を起点に北=坎、北東=艮というように八方位が割り振られます。
吹き抜けや中庭がこの中心付近にかかる間取りでは、家相を読む側からすると、そこに何があるかを確認しづらいという事情が生まれます。壁や床で仕切られた部屋であれば、そこに置かれている設備を特定しやすい一方、吹き抜けは上下の階をまたぎ、中庭は屋外と地続きになるため、三所三備の考え方をそのまま当てはめにくい間取りだといえます。
古典の記述が吹き抜けや中庭を直接扱っていないのは、当時の木造家屋にこうした空間そのものが一般的でなかった事情もあると考えられます。江戸期の住宅は、部屋を壁と建具で仕切る構成が主流であり、上下階を大きく開放する吹き抜けや、建物中央を庭として空ける中庭は、現代の住宅ほど一般的な間取りの形ではありませんでした。
三
間取り図でまず確認するのは、家の中心(宅心)がどこに来るかです。中心の取り方は、建物の外形から重心を求めるやり方が一般的で、詳しくは家の中心(宅心)の取り方で扱っています。
次に、その中心付近に吹き抜けや中庭が重なっているかどうかを見ます。1階と2階の平面図を重ねて、上部が開放されている範囲を確認すると、中心とどれだけ重なるかが分かります。中庭の場合は、建物を囲む外形の中で、屋根のない区画がどの程度の面積を占めているかを見ます。
あわせて確認したいのが、吹き抜けや中庭に面して竈(キッチン)・厠(トイレ)・井戸にあたる給排水設備が配置されていないかという点です。三所三備の考え方に沿えば、中心そのものに設備を重ねないことが重んじられてきたため、吹き抜けや中庭を挟んで設備がどちらの方位に寄っているかも、あわせて見る材料になります。
吹き抜けが部分的で、中心のごく一部にしかかからない間取りもあります。その場合は、吹き抜けの範囲そのものよりも、中心に最も近い設備がどこにあるかを優先して確認するという見方もできます。中庭についても同様に、建物全体に対してどの程度の割合を占めているかによって、扱いの重さが変わってくると考えられます。
四
現代の住まいで吹き抜けや中庭が語られるとき、実利として大きいのは温熱環境と音の伝わり方です。
吹き抜けは上下階の空気をつなげるため、冷暖房が効きにくくなる場合があります。とくに冬場は、暖めた空気が上階に抜けてしまい、1階の足元が冷えやすいという指摘がされます。断熱・気密の水準が上がった住宅では影響は小さくなりますが、吹き抜けに面した居室では床暖房やシーリングファン、補助的な暖房を組み合わせる例が見られます。
音についても、吹き抜けは上下階の音が伝わりやすくなります。1階の生活音が2階の寝室まで届いたり、逆に2階の物音が1階に響いたりする点は、間取りを検討する段階で確認しておきたいところです。寝室を吹き抜けから離れた位置に配置する、建具で緩やかに区切るといった工夫が取られることもあります。
中庭は、建物の中心付近に光と風の通り道を作れる点が実利として挙げられます。周囲を建物で囲まれた区画でも、中庭に面した部屋には自然光と通風を取り込みやすくなります。いっぽうで、中庭に面した窓が多いほど視線や雨仕舞いへの配慮も必要になり、外構との取り合いをあらかじめ検討しておくことが実務上の要点になります。
五
よくある誤解の一つが、「吹き抜けや中庭は家相で凶とされる」という言い切りです。ここまで見てきたとおり、家相の古典に吹き抜けや中庭そのものを名指しした記述は見当たりません。宅の中心を重んじる考え方の延長として語られることがある、という以上の断定は、典拠からは言えません。
もう一つの誤解は、吹き抜けや中庭があると建物の外形の欠けが自動的に生じる、という思い込みです。中庭を囲むコの字型やロの字型の建物では外形に凹みができ、欠けとして扱われる場合がありますが、これは中庭そのものではなく建物外形の形の問題です。吹き抜けは屋内で完結する話なので、外形には影響しません。
両者を同じ話として混同しないことが、読み違いを避ける最初の一歩です。建物の中心に何があるかという話と、建物の外形がどんな形をしているかという話は、家相ではもともと別の観点として扱われてきました。
六
無料の見立てが見ている範囲
マドラバの無料の見立ては、玄関と水回り(浴室・トイレ・キッチン)が鬼門・裏鬼門にあたるか、建物の外形に欠けがあるかの3点を確認しています。吹き抜けや中庭そのものは読み取っていません。ただし中庭を囲む形で建物外形に凹みが生じている場合は、その凹みが外形の欠けとして見立てに反映されることがあります。吹き抜け・中庭が家の中心にかかっているかどうかの判定は、完全版レポートで扱う範囲です。
七
準備中です。まずは無料の見立てからどうぞ。
八
家相の「三所三備」(三所=鬼門・裏鬼門・宅の中心/三備=竈・厠・井戸)に三備を掛けないとする説。江戸期の家相書群(松浦琴鶴『家相一覧』天保四年 ほか)に見られる
江戸期の家相書(松浦東鶏『家相図解』ほか)に見られる建物外形の「張り・欠け」論
文献名までは特定していますが、原文・頁の照合は行っていません。表記を「〜に見られる」に留めているのはそのためです。
九
家相の古典に吹き抜けそのものを名指しした記述は見当たりません。家の中心を重んじる考え方の延長として語られることはありますが、吹き抜けを一律に良くないとする典拠はここでは確認できません。中心付近にどのような設備が重なっているかを、あわせて確認することが実際の見方に近いといえます。
中庭を建物で囲むコの字型やロの字型の間取りでは、外形に凹みができ、欠けとして扱われる場合があります。ただし中庭を囲まず別棟として離す配置や、凹みの割合が小さい配置では、欠けにあたらないこともあります。実際にどの程度が欠けにあたるかは間取りによって異なるため、外形図で確認するのが確実です。
メゾネットのように住戸内で上下階がつながる間取りでも、上部が開放される点は戸建ての吹き抜けと共通しています。ただし住戸の外形は建物全体の一部にすぎないため、外形の欠けとしての見方は戸建てとは前提が異なります。中心の取り方についても、住戸単独では判断しにくい場合があります。
温熱環境と音の伝わり方は、現代の住まいでも実利として指摘されます。冷暖房の効き方や上下階の音の伝わりやすさを確認しておくと、暮らし始めてからの負担を減らせます。家の中心との重なりについては、家の中心(宅心)の取り方であわせて確認できるので、間取り検討の段階で見ておくとよいでしょう。