敷地と建物の要素
玄関の方位は、実は道路の位置でほぼ決まります。北側道路・南側道路・角地のそれぞれで、玄関がどの方位に落ち着きやすいかを整理します。
一
玄関の方位を決めているのは、突き詰めれば道路の位置です。玄関は道路に向けて設けるのが自然なため、敷地のどちら側に道路が接しているかで、玄関の方位はおおむね決まってしまいます。間取りを考える前に、まず道路の位置が玄関の候補地を絞り込んでいる、という順序で捉えると分かりやすくなります。
北側に道路がある敷地では玄関は北側に、南側に道路がある敷地では玄関は南側に設けるのが一般的です。角地で二方向に道路が接する敷地では、どちらの道路に玄関を向けるかという選択が生まれますが、それでも道路が接していない方位に玄関を設けることは、動線としても不自然になります。二方向道路の角地は、この意味で数少ない選択の余地がある敷地だといえます。
つまり、家相の観点から「玄関の方位を選ぶ」という言い方は、実際には「道路の位置から絞り込まれた選択肢の中から選ぶ」ことに近くなります。どの敷地を買うか・借りるかを決めた時点で、玄関の方位はかなりの部分まで決まっているといえます。この点は、間取りをこれから決める新築の場面でも変わりません。
二
家相の通説では、南東(巽)に向いた玄関が吉とされてきました。この説には、採光や通風の面からの説明が付されることが多く、日当たりのよい方位に人の出入り口を設けることの実利が、吉凶の記述と重なってきたと考えられています。
一方で、江戸期の家相書が指南の対象としていた家づくりでは、施主が敷地をある程度自由に選び、そのうえで建物の配置を決めるという前提があったと考えられます。当時の宅地は現代ほど細分化されておらず、道路の位置によって玄関の方位がここまで強く制約される状況は、必ずしも一般的ではなかったと見られます。
現代の宅地は、道路の位置がすでに固定された状態で売りに出されます。買い手や借り手は、道路の位置を含めて敷地を選ぶことはできても、購入後に道路の位置を変えることはできません。玄関を南東に向けたいという希望があっても、敷地に接する道路が北側にしかなければ、その希望をそのまま実現することは難しくなります。
家相書が語る「玄関の方位」は、方位を自由に選べることを前提にした記述であり、道路付けという現代の制約条件までは踏み込んでいません。この前提のずれを理解しておくと、記述をどこまで自分の状況に当てはめられるかが見えやすくなります。玄関の方位だけを取り出して吉凶を論じるのではなく、道路付けという背景まで含めて読み解く姿勢が必要になります。
三
道路付けから玄関の方位を見立てる際は、まず敷地図で道路がどちら側に接しているかを確認します。
北側道路の敷地では、玄関は北寄りに設けられることが多く、間取り上は南側にリビングや寝室をまとめ、北側に玄関・水回り・階段を集める配置がよく見られます。この配置になりやすい理由は北の玄関や北東の玄関でも触れています。
南側道路の敷地では、玄関を南側に設けやすく、日当たりのよい方位に玄関と居室の両方を配置する形になります。南東寄りに玄関が来れば、通説で好まれるとされる方位に近づきますが、敷地の間口や隣家との位置関係によっては、必ずしも南東ぴったりには収まりません。
角地で二方向に道路が接する場合は、どちらの道路に玄関を向けるかで方位が変わります。日当たりのよい面を居室に確保しつつ、動線の都合で玄関だけ別方位に回す設計も見られ、この場合は玄関の方位が居室の方位と一致しないことがあります。
道路斜線による制限も、間接的に建物の形へ影響します。道路の幅員に応じて、道路に面した側の建物の高さや形が制限されるため、道路付けは玄関の方位だけでなく、建物全体の設計条件にもかかわってきます。
四
現代の住宅設計では、道路付けの制約のなかで、玄関の方位をどこまで調整できるかが実務上の関心になります。
角地であれば、二方向の道路のうち日当たりや動線の面で条件のよい側に玄関を寄せる、という調整の余地があります。単路地(一方向にしか道路が接しない敷地)では、玄関の方位はほぼ道路の位置で決まり、調整の余地は限られます。
売地や中古物件を選ぶ段階であれば、道路付けそのものを選択の材料にすることができます。北側道路の土地を避けて南側道路の土地を選ぶ、といった判断は、家相の観点からは玄関の方位を選ぶことと同じ意味を持ちます。
すでに決まった敷地で道路付けを変えることはできませんが、玄関の位置を道路に対してどこに寄せるかという範囲では、設計段階の調整が可能です。北側道路の敷地でも、玄関を北東・南西からわずかに外す配置ができないか、設計者に相談する余地は残されています。新築の設計段階でどこまで動かせるかについては新築の間取りを決めるときの家相でも扱っています。
五
道路付けについて、いくつか誤解されやすい点があります。
まず、玄関の方位は施主が自由に選べるという誤解です。実際には道路の位置によって選択肢がかなり絞り込まれており、道路が接していない方位に玄関を設けることは、動線の面からも現実的ではありません。
次に、南側道路であれば必ず玄関が南東になるという誤解です。敷地の間口や隣家との距離、駐車スペースの配置などによって、実際の玄関の方位は南から南西寄りにずれることも珍しくありません。
また、道路斜線による建物の削りと、家相で見る建物の外形の欠けを同一視する誤解も見られます。道路斜線は主に建物の高さや上層階の形にかかわる制限であり、間取り図に現れる1階部分の外形の欠けとは、生じ方の仕組みが異なります。
六
無料の見立てが見ている範囲
マドラバの無料の見立ては、玄関が鬼門・裏鬼門にあたるか、水回りが鬼門・裏鬼門にあたるか、建物の外形に欠けがあるか、の3点を拝見していますが、道路の位置そのものは読み取っていません。間取り図から玄関の方位を確認することはできても、なぜその方位になったか(道路付けの事情)までは扱っていません。道路付けから玄関の方位が決まる過程の詳しい見立ては、完全版レポートで扱う範囲になります。
七
準備中です。まずは無料の見立てからどうぞ。
八
鎌倉期『陰陽道旧記抄』の「竈、門、井、厠、者家神也」および江戸期の家相書(松浦東鶏『家相図解』『家相大全』ほか)に見られる、門戸を鬼門・裏鬼門に忌む説
家相の通説で巽(南東)の玄関を吉とする説(江戸期の家相書群に見られる)。採光・通風の面からの説明が付されることが多い
易の八卦を方位に当てる考え方(後天定位盤)。北=坎、北東=艮、東=震、南東=巽、南=離、南西=坤、西=兌、北西=乾
文献名までは特定していますが、原文・頁の照合は行っていません。表記を「〜に見られる」に留めているのはそのためです。
九
道路の位置によって、選べる範囲はかなり絞り込まれます。玄関は道路に向けて設けるのが自然な動線であるため、道路が接していない方位に玄関を置くことは現実的ではありません。角地のように二方向に道路が接する敷地であれば、その中から選ぶ余地は残ります。
必ずしもそうとは限りません。敷地の間口や隣家との距離、駐車スペースの配置などによって、実際の玄関の方位は南から南西寄りにずれることもあります。道路が南側にあることは玄関の方位を絞り込む要因の一つですが、決定づけるものではありません。実際の方位は、間取り図が固まってから確認する必要があります。
道路斜線は主に建物の高さや上層階の形にかかわる制限で、間取り図に現れる1階部分の外形の欠けとは仕組みが異なります。1階の輪郭に凹みが生じているかどうかは、別途、間取り図から確認する必要があります。上層階の形が削られていても、1階の輪郭がそのまま四角であれば、家相で見る欠けにはあたりません。
家相の観点だけで敷地選びを判断すべきだという記述は、ここで示す典拠には見当たりません。道路付けは玄関の方位を左右する一つの要因ですが、日当たりや周辺環境、価格など、他の条件とあわせて総合的に検討されるものです。気になる場合は、玄関の位置だけでなく建物全体の外形もあわせて確認しておくとよいとされます。